不幸の似合う男

■ロエン先生、不幸の兆しを目撃するの巻■

セレヴィ=サッシュは自分にあてがわれた研究室を片付けていた。
すると、そこに自分の指導教諭であるロエン=サンティが現れた。
ロエンはダンボール箱の中身を勝手に確認してため息をついた。
「セレヴィ先生、俺たちに必要なのは理論じゃなく実践。ご存知とは思いますが――」
「はぁ…でも俺、新米だし。何て言うか、形から入りたいって言うか――」
 箱の中身は書物。剣士系の《スペード》には余り縁の無い代物だ。
「ふぅん。まぁ、『先生っぽい』部屋にはなっているか…」
 ロエンは部屋を見渡すとニヤッと笑った。
「実は貴方とマキュア先生の歓迎会を開く事になってね。今からなんだが、来るだろう?」
「――へっ?あ、はいッ!」
(まだ生徒だった頃の癖が抜けてないらしい…こんな風でこの先、生徒になめられないか心配だな…)
 ロエンの後をパタパタと付いて来る様はまるで大型犬のようだ。
(彼の前世は犬だな、うん…)

 ロエンの案内で到着したのは学生寮のある区域。それも、《クローバー》の代表を務める生徒に与えられる邸宅『四葉亭』。その庭先にその集まりはあった。
「おー、先生こっち〜」
 蒼い髪の少年が手招きする。
「主賓がようやく揃ったな。紹介するよりも、まずは始めようか…」
 グレアムがそう言うと皆、待ってましたとばかりに拍手を贈る。

「それでは、新たにこの学園の仲間と相成った2人を歓迎して――乾杯!」

「「「乾杯!!!」」」

 カチンとグラスを合わせる。
出席者は、主賓の2人を除くと12人。
教職員は《スペード》、《ハート》の教師が揃っている。そこに、《ダイヤ》のマリウスが混じっているが、同じ新3年生を担当する縁から出席したのだろう。
卒業生で元《スペード》Qの事務員が混じっているのはご愛嬌だ。
生徒側は《クローバー》のAとQ、《ハート》のAとKが出席していた。
「セレヴィ、君から挨拶したまえ」

セレヴィ=サッシュです。この学園の卒業生で出身はシンジャです。よろしくお願いします」

 セレヴィが挨拶をする。続いて同じく新任の女性教諭がスッと立ちあがった。小柄だが、キリッとした瞳が印象的だ。

「私はマキュア=プレザント。出身はアムシスタ。専門は傷病治癒と浄化払拭。趣味は酒盛りと賭け事!今まではそっちで食べてたカンジです。ルファールに出会ったのも競馬場だしね〜♪よろしく!」

 ニヤリという形容がピッタリなイタズラっぽい笑い方をする。セレヴィは少しその態度に気圧された。

「では、我々も改めて挨拶をしよう。グレアム=カーティスだ。《ハート》の責任者でもある。よろしく」

 グレアムは温和な雰囲気の紳士だった。教師というより、神父の方が似合っている。

オフェリア=ルアージュと言う。《ハート》では《霊撃破邪》《封印封魔》等が担当だ。必要に応じて《ダイヤ》でも講義をしている。よろしく」

 オフェリアは艶やかな黒髪の美女だった。だが、その美女の傍らには何やら気味の悪い継ぎ接ぎだらけの大型犬が横たわっていた。
「あぁ、コイツは『ロボ』と言う。犬狼だ…」
 犬狼は狼犬と良く似たモンスターだ。調教次第で使い魔にもなると聞いていたが、実物を見るのはセレヴィは初めてだった。マキュアは何か思うところがあったのか、その癒しの手をロボに翳してみたりしていた。

「ロエン=サンティです。《スペード》に籍はありますが、《ダイヤ》で授業を行う事もあります。私の教育理念は『実践あるのみ』。演習を積極的に行いたいと思っています。よろしく」

 ロエンが微笑う。
(あぁ…あの胡散臭い笑顔が2割増しに…!)
その場に居た誰もが内心そう思ったとか、思わないとか…。

クライフ=ティフィだ。今は《スペード》に籍を置いているが、元々は《ハート》が専門だ。よろしく」

 続いて、メガネをかけた堅物そうな男が挨拶をした。
(クライフさんって…俺の前の《スペード》Aじゃなかったっけ?)
 記憶を遡ろうと彼のかつての面影を探したが、ふいに彼の隣に座っていた女生徒と目が合った。
(ん?)
 女生徒はにっこりと優美な微笑みを返してくれた。
(うっわ…可愛い〜なぁ、この子…)
 うっかり見惚れていると、クライフに睨まれた。

「いくら同僚と言っても、妹に近寄る男は虫以外の何者でもない、私にとっては排除すべき存在だと言う事をゆめゆめ忘れぬように頼みますよ。セレヴィくん」

(こ…怖ぇ〜)

「セレヴィ先生、お兄様が失礼な事を申し上げてすみませんでした。私は《クローバー》のQを務めさせていただいているシャーヤ=ティフィと申します」

「あ、いえ…」
(やっぱり、可愛い…)

「で、《クローバー》のAが俺、シオン=リューク。よく《スペード》の授業に参加してるんでよろしく〜」

 蒼い髪の少年がセレヴィの方を向いて挨拶をする。笑顔だったが、瞳は笑っていなかった。
(…俺、何かした?)

「僕はルーエ=ファリーニと言います。《ハート》のAを務めさせていただいています。よろしくご指導下さい」

 金髪の宗教画から抜けだして来た天使のような美少年が微笑みを零す。
「…っぁ、萌え…」
 ポツリと何か言ったような気がしたが、灰色の髪の長身の青年が額に手をやりながらヨロヨロと立ちあがる。

「僕、アルソー=レーヴ言います。そこに居る金髪メガネの女が双子の姉ちゃんのリィエンですわ。かれこれ《ハート》のKも務め始めて3年目になりますけど、先生方、今後ともよろしくお願いします」

 顔つきがキリッとなるとピシッと一礼する。普段の彼を知っている人物なら、いささか違和感を覚える礼儀正しさだが、こういう一面も彼の中には確かに存在しているのも、また、事実である。

「じゃあ、ウチの紹介は別にええか?まぁ、一応…このアホな弟の姉のリィエン言います。去年卒業したばっかりで、今は事務員として働いてます。よろしく」

 金髪にメガネの色白な女性がペコリと頭を下げる。
最後に立ちあがったのは水色の髪をした美しい人だった。

マリウス=ブルー・シアーと言います。専門は《ダイヤ》ですが、セレヴィ先生とは同じ3年生担当という事で…仲良くしましょう」

(うわっ…美人!)
「えと…は、はい。よろしくお願いします」
 セレヴィは赤くなりながら礼をする。それを見ていたリィエンのメガネの奥の瞳が怪しく光ったのをロエンはしっかり見ていた。
(あぁ…またリィエンくんの悪い病気が発病しそうだね…)


 ――数週間後、購買施設にある本屋の一角にあるとあるコーナーに、新たなジャンルが新設されたとか…。

第2弾です。
セレヴィ先生はマリウス先生の性別をまだ知りません。
余談ですが、僕とリィエンとではあんまりCPの趣味が合いません。
リィエンが新たに開拓したのはセレ×マリです。